高齢になると、若い頃に比べて風邪をひきやすく、また、風邪から肺炎へと進行しやすい傾向があります。これには、加齢に伴う身体機能のいくつかの変化が関係しています。まず、免疫機能の低下(免疫老化)が大きな要因です。年齢とともに、外部から侵入してきたウイルスや細菌を攻撃し、排除する免疫細胞の働きが弱まったり、新しい病原体に対する抗体を作り出す能力が低下したりします。そのため、風邪のウイルスに感染しやすくなるだけでなく、感染後に体内でウイルスや細菌が増殖しやすくなり、肺炎にまで至るリスクが高まるのです。次に、呼吸機能の低下も影響します。加齢により、肺活量が減少し、咳をする力も弱くなります。咳は、気道に入り込んだ異物や病原体、痰などを体外へ排出するための重要な防御反応ですが、この咳の力が弱まると、病原体が肺の奥深くに留まりやすくなり、肺炎を引き起こしやすくなります。また、飲み込む力(嚥下機能)の低下も無視できません。高齢になると、食べ物や唾液が誤って気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)が起こりやすくなります。この誤嚥によって、口腔内の細菌が肺に入り込み、誤嚥性肺炎を発症するリスクが高まります。特に、寝たきりの方や脳血管障害の後遺症がある方は、誤嚥性肺炎を起こしやすい状態にあります。さらに、高齢者は糖尿病や心臓病、慢性呼吸器疾患といった基礎疾患を抱えていることが多く、これらの疾患は免疫力を低下させたり、呼吸機能を悪化させたりするため、肺炎を発症しやすく、また重症化しやすい要因となります。加えて、高齢者の肺炎は、典型的な高熱や激しい咳といった症状が現れにくく、何となく元気がない、食欲がない、意識がぼんっりしているといった非典型的な症状で発症することもあります。そのため、周囲の人が変化に気づきにくく、診断や治療が遅れてしまうケースも少なくありません。これらの理由から、高齢者の風邪は特に注意深く経過を観察し、少しでも普段と違う様子が見られたら、早めに医療機関を受診することが重要です。