臨床の現場で多くのインフルエンザ患者を診察してきた立場から申し上げますとインフルエンザは本来私たちの免疫系が自力で排除可能なウイルスであり健康な成人であれば自然治癒は十分に可能です。しかしそのために必要な期間や条件やリスクについての正しい知識を持っておくことは二次的な健康被害を防ぐために極めて重要です。自然治癒における典型的な経過としては発症から1日目から3日目が高熱のピークであり4日目から解熱が始まり5日目から7日目にかけて呼吸器症状が残存しつつ全身状態が改善していくというステップを踏みます。抗インフルエンザ薬を使用した場合と比較すると解熱までの時間が1日から2日程度長くなる傾向にありますが最終的な完治までの期間に大きな差は出ないことが多いです。ただし私が患者さんに強くお伝えしたいのは自然治癒を目指す過程であっても医療機関への受診を検討すべき明確なサインがあるという点です。例えば水分が全く摂れずに尿の量が極端に減っている場合や呼吸が苦しくゼーゼーという音が混ざる場合や意識が混濁して会話が成立しない場合は肺炎や脳症といった深刻な合併症の兆候である可能性が高いため直ちに受診が必要です。特に子供の場合は異常行動に注意が必要で発症から2日間は熱の高さに関わらず目を離さないようにしてください。また自然治癒を選択したとしても周囲への感染を広げないという社会的責任は免れません。発症から5日が経過しさらに解熱してから2日が経過するまではウイルスを排出している可能性が高いためこの期間は外出を控え自宅内で隔離生活を送る必要があります。診察室でよく薬を飲まないと治りませんかという質問を受けますが私たちは薬の有無よりも患者さんの全身状態を重視します。もし自宅での療養を選択されるのであれば部屋の温度を20度以上に保ち湿度を60%程度に維持するなどの環境調整を徹底してください。また心臓疾患や糖尿病などの基礎疾患がある方は自己判断での自然治癒は避け必ず主治医の指示を仰ぐようにしてください。インフルエンザとの戦いは自分自身の免疫システムとの共同作業です。医師はそのサポート役として存在しており必要があればいつでも適切な介入を行う準備ができています。無理をせず自身の限界を見極めながら回復を待つ姿勢が最も安全な自然治癒のあり方と言えるでしょう。